繰り返されるジェノサイド 封鎖・占領・植民地主義 ~完全封鎖下のガザを訪ねて~ ナラーラの主催で京都大学の岡真理さんが講演 ナラーラは、現代アラブ文学とパレスチナ問題がご専門の岡真理さん(京都大学)を講師としてお招きし、標題名の講演会を開催しました。開催日時は9月6日(土)午後2時から4時30分まで。会場は奈良県文化会館AB会議室。今次のイスラエルによるガザ攻撃に対する関心の高さを反映して、100人の方が参加されました。 講師は、学生の時からパレスチナ問題を現代世界に生きる人間の思想的課題として考え続けてこられ、しかもご自身が現地に入りご自分の眼で現実を見てこられ、現地発の確かな情報に基づいてイスラエルのガザ攻撃の不当さとパレスチナ問題の本質を訴え続けてこられました。それだけにお話は、広がりと深さにおいて、2時間という時間では語りつくせないものだということが感じ取られました。 イスラエルはガザに対する攻撃を、この6年間に3回行っています。 今次(2014年)の攻撃は、現地時間で7月7日から8月26日まで51日間に及びました。イスラエルによる今次攻撃の目的は、4月のハマース(ガザ)とファタハ(西岸)の和解により6月に発足したパレスチナ暫定統一政府の切り崩しにあります。その被害規模は、パレスチナ側の死者2168人(うち民間人1662人80%)負傷者10895人に対して、イスラエル側の死者は66人(民間人8人)です。 現地時間8月26日午後7時(日本時間8月27日午前1時)にエジプト政府の仲介によりイスラエル軍とハマースの間で長期的な停戦合意が発効しました。私たちはこのことを単純に喜んでいいのでしょうか。講師は、「『停戦になってよかったね』ということばに傷ついた。」というガザの友人のことばを紹介されました。 講師は、6年で3回にわたるイスラエルのガザに対する攻撃について、過去2回の攻撃はジェノサイド「的」攻撃であったが、今次攻撃は、世界が注視する中で公然と行われた大量殺戮・大量破壊、ジェノサイドそのものだと指摘します。今回の停戦合意でも、長期的停戦を保障するものは何もなく、ましてハマースが求めていたガザ封鎖の全面解除など核心の問題については、未解決のままです。ガザの人々は、イスラエルによる次の新たなジェノサイドがいつ始まるかと不安におびえています。 講師によれば、停戦後も無人偵察機がガザの上空を飛び回っており、この無人偵察機にはソニー製のレンズが使われているそうです。180万のガザの住民は、イスラエルによる完全封鎖の下、外との人と物の行き来が絶たれ、そこから逃れることのできない「袋の鼠」状態に置かれています。一方、イスラエルでは、ユダヤ系市民の95%が戦争を支持し、官民によるレイシズム、アラブ人に対するヘイト扇動が行われています。 ここで、講師は、「イスラエルとは何か」(イスラエルという国の成り立ち)という問題に話しを進められました。 今回ガザで起きていることは、1948年にまで遡ります。アメリカの支援の下、この年の5月14日(ユダヤ暦)にイスラエルが建国されます。この時、多くのパレスチナ人が虐殺され、およそ80万人から100万人のパレスチナ人難民が発生しました。この日のことを、パレスチナ人は「ナクバ」(アラビア語で「大破局」「大災厄」)と言います。イスラエルは、1897年第1回世界シオニスト会議以来の「シオン(ユダヤ教の神殿のあるエルサレム郊外の丘)に還れ」をスローガンとし、選民意識を土台としたユダヤ人の偏狭かつ排他的な民族主義の思想に基づくシオニスト国家であり、パレスチナ人に対するレイシズム(民族浄化)により建設された入植型植民地国家です。イスラエルは、貧しい人ではなく金持ちと健康な人の国です。建国後、今日まで一貫して続くパレスチナ人の民族浄化は、「漸進的ジェノサイド」とよばれます。 講師は、イスラエル・パレスチナ問題は、歴史的文脈の中で捉えないと本質はわからないと強調されました。――この問題は、決してユダヤ教とイスラム教、ユダヤ人とアラブ人の対立ではない。イスラエルを「ユダヤ人国家」と言ってはいけない。なぜなら、ユダヤ人の中にはユダヤ教徒でない人、シオニストでない人がたくさんいるから。この問題は、ヨーロッパキリスト教社会の中に根っ子があり、第1次世界大戦後のヨーロッパの植民地主義的世界分割が中東にいくつもの国を生み出した結果である、と。 一方、マスメディアなどが「イスラム原理主義組織」「テロリスト」などと形容するハマースについても、講師は正しい理解を持つことを主張されました。――イスラエルによるパレスチナ人の土地の占領が先にあり、それに対して国際法で認められた抵抗権の行使としての武装抵抗を行っているのがハマースである。ハマースのすべてを認めるわけではないが、国際法が認めるものか、禁ずるものかを見分ける必要がある。例えば、今回のエジプトによる停戦提案に対して、ハマースは、「イスラエルが自分たちの要求(封鎖の解除)を呑むなら、10年間停戦する」という対案を出していた、と。 他方、イスラエルの異常さ、不法さについて講師は次のような事実を指摘されました。 イスラエル国内では、「アラブ人を殺せ!」(イスラエル国民の20%がアラブ人)、「左翼を殺せ!」(イスラエル国民の5%が左翼)ということが声高に叫ばれ、イスラエルの与党も野党も、ガザに対するジェノサイドを公然と唱え、パレスチナ人に対するレイシズム、ヘイト扇動が行われ、反対の声を公然とあげることができないという状況がある。 また、歴史的にみて、ヨーロッパにおけるユダヤ人差別が問題であるのに、1947年の国連総会では、ユダヤ人を自国から追い出したいキリスト教徒が主なアメリカ、ソ連、フランス、ブラジルなどが賛成し、パレスチナの56.5%の土地をユダヤ国家、43.5%の土地をアラブ国家とし、エルサレムを国際管理とするというパレスチナ分割決議が可決されました。しかし、イスラエルは国連分割案の1.5倍の面積を占領した。 続いて、講師は、イスラエルによるガザの封鎖について、これは「殺戮なきジェノサイド」あるいは「生きながらの死」であると、ズバリその本質を指摘されました。 世界人権宣言(1948年)は、第13条2項で、「すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する。」と謳っています。しかし、ガザの住人にはそのような自由はありません。子供たちは、封鎖されているガザしか知りません。ライフラインはイスラエルが完全支配し、飢え死にしない程度に生かさせておくという政策がとられています。これは、「緩慢な死刑」「狡猾なジェノサイド」です。封鎖解除なき停戦を受け入れろというのは、「生きながら死ね」というのに等しいことです。 この問題について講師はこう強調されました。――《ガザ》は意図的かつ政治的につくり出されたものであり、《ガザ》を「人道問題」に還元してはならない。《ガザ》とは、あくまでも「人権問題」であり、「政治的問題」である、と。 そして最後に、日本の私たちがなすべきこととして、次のように訴えられました。 ― 現実を変えること(Make Difference)。 ― トランスナショナルな草の根の市民の力で「不処罰」の「伝統」に終止符を打つこと。 ― イスラエルに対するBDS=ボイコット(Boycott)、投資引き上げ(De-investment)、制裁(Sanction)を実施すること。 ― 集団的自衛権、武器輸出の解除、沖縄米軍基地に反対すること。 ― 自分たちの代表としてこれらの問題を解決する政府をつくっていくこと。 イスラエル・パレスチナ問題についての深く広い知識と現地からの豊富な情報に基づく講師のお話のすべてを紹介することはできませんが、私なりに消化できた範囲でその要点をお伝えします。間違いがあれば、それは報告者の責任です。 なお、この問題についてさらに詳しくお知りになりたい方々のために、講師が紹介された本(新書版)と日本語情報サイトは以下のとおりです。 ・ヤコヴ・M・ラブキン著、菅野賢治訳『イスラエルとは何か』(平凡社新書、2012年) ・パレスチナ情報センター http://palestine-heiwa.org/ ・パレスチナの平和を考える会 http://palestine-forum.org/ ・ストップ・ソーダストリーム・キャンペーン http://d.hatena.ne.jp/stop-sodastream/ (報告者:岩本速雄)
by naraala
| 2014-09-18 23:15
| 講演会
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